ふるいものがたり

いらっしゃいませ。 このサイトには『ファイナルファンタジータクティクス』の二次創作小説があります。

遠い存在(01)

屋敷の庭に出ている女は樹齢数十年ほどの木を前にして立っていた。

…………。

精神を集中する。

…………。

『明鏡止水の境地を保ちつつも、両手のひらへ鋭気を宿らせる。それから、構えをつくって…対象へと手刀を振りおろす!!!』

…………。

風の音が聞こえてくる。

…………。

……できない。

………木は無事で、傷一つない。

枝の葉がゆれている。

本日は弱い風がある。

…………。

…師よ。

あなた様は…私から…どれほど、遠いところに立っておられるのですか。

………私は…あなた様より…強くなれますでしょうか。

誤解なさらないでください。

出藍(しゅつらん)の誉(ほま)れ、というものはありません。

弟子は…師以上には、なれません。

生徒はその教師以上のものには、なれません。

私は………近付きたいのです。

弟子が師と同様にまでなれるのであれば…それだけでもう、十分だと思うのです。

私は…あなた様には遠く及びません。

しょう壌(じょう)の差、です。

剣を握ったとしても、槍を握ったとしても、素手で闘ったとしても…私にはあなた様ほどの力は無い。

この国の各地をまわり…実戦を幾度となく経験し…私は…それを悟りました。

師よ…あなた様ならば…一瞬で成し遂げられるようなことが、私には…とても困難で…毎度毎度、仲間に救ってもらうのであります。

師よ、あなた様は隻眼(せきがん)でいらっしゃいます。

しかし…斗南(となん)の一人(いちにん)であらせられます。

あなた様は両眼を持つ私よりも、すべてを見通しています。

………。

私では…私では…できないのでしょうか?

主(あるじ)を守護すること、国を乱す邪(よこしま)な者どもを駆逐すること、弱き民を助けること、それから…さらに強くなること、が。

…………。

風は女の問いに答えてはくれない。

自分の前にある木に触れていた女へ男の声が聞こえた。