…………襲撃、と言った。
何に…襲撃されたというの?
竜巻や…天災の類?
それとも…モンスターの群れ?
いいや…それは考えにくい。
ならば…人?
王家に反旗を翻す…武装集団か、何か?
ゲオルク・マインドル……とは、いったい誰なのか?
そもそも……それが起こったのは、いつのことなのかしら?
竜巻や火山の噴火よりも後なのか、それよりも前なのか……。
女は腕を組んで考えこみつつ、歩いていた。
…国王の宮殿を破壊したい、と狂気に満ちた瞳をしていた女と、同一人物とは思えないほどに女は落ち着いている。
女はしばらく町を東へ進み続けた。
終戦後、組織解体された国軍の本部の一つであった『ヘルベルト城』という城が、王都ルザリアの東端に建っていることは、女も知っていた。
ただし、女はその城内へ入ったことはなかった。
今現在が何の月の何日なのか、そして今現在の時刻はいつなのか、さらに今現在は四季でいえば何へ該当するのか。
女はこのことをまるで理解できないまま、王都を横断した。
疲労感も空腹感も感じない女はひたすらに考え続けて、城の前まで来た。
城門はごつごつした造りで、『ニューンベルク城』よりもあっさりとしており、長方形のくぼみには『ヘルベルト城』と彫られている。
女は門番兵がいないため、そのまま入ってみた。
女がきょろきょろしていると、一人の男性が通りかかった。
「ん…おや、お客様ですか?」女よりも若そうな男性は、微笑んだ。
「あの…。ここは……『ルザリア聖近衛騎士団』が使っている城でしょうか?」女は男性に聞いてみた。
「ええ、そうですとも。ここへは、誰かをおたずねで?」男性は笑顔のまま、返答した。
「はい。…えー…その……ギレ・ガーランド団長様か……フレシア…先生、いますでしょうか?」女は難しい顔をしながら、他人の名前を口にした。
「ギレ、ガーランド…フレシア…せんせい…は、ここにはいませんね…。他に…お捜しの方のお名前はご存知ですか?」
男性は真摯(しんし)な態度で女を手助けしようとしてくれている。
……この国で生きる者にしては珍しい。
相手が誰であれ、相手へ気を許してはならない。
この乱れた国における、基本的な処世術だ。
少しでも油断すると、寝首をかかれてしまう恐れがあるではないか。
「…な、なら…そうだな………あっ。…ローラ、ローラ・ファガルスという団員は、在籍しておりますでしょうか?」女はこれまで忘れ果てていた人物の名前を口にした。
「ローラ・ファガルス……もしかして…ローラ教官のことかな?…教官なら、いますよ。…ボクが案内しましょう。こちらへどうぞ」男性はほがらかに言い、歩きはじめた。
「…教官!?ローラが……?」女の言葉に男性はうなずき、「はい。…きびしい教官なんです。ボクも仲間も怒られてばかりでして…。『聖剣技』がなかなか、一振りで出せるようにならないんですよ。ボクには才能がないのでしょうか?…ローラ教官の旧姓は、ファガルス…というんですか?知らなかったなぁ〜。…教官の…ご友人ですか?」と、逆に女へ質問した。
「は…は、はい。古い…友達でして……」女は答えた。