王都の方角からやってきた鳥車(ちょうしゃ)を操る男は返した。
「…あんたが何者かは知らないが、救援物資をここで売ってやるわけにはいかない。ゴルランドには待っている人達がたくさんいる。すまないが、あきらめてくれ」と。
男の受け答えが癇(かん)に障った女は腰の忍者刀を抜くや、男をぶった斬った。
操縦者を殺められた二羽のチョコボは驚き、逃げ出そうとしたが並列に荷車へつながれていた。
女はじたばたして落ち着きがない二羽、それぞれの胸へ直刀をザックリと刺し込み、腹部までを切り裂いてやった。
チョコボを殺す場合は、これが効果的。
ふふふふふ…。
血を流して重なるように倒れた二羽のチョコボの横には、首から胸の下までを斬られた男も倒れている。
女は荷車の荷台へ上がり、木製の箱を開けた。
黄色い果物がいくつも詰められている。
…この果実は知っている。
これは、とてもおいしいものだ。
たしか…主にゼルテニア地方で収穫できるものだったはず。
…ジャムにもなるし、酒にも菓子にも茶にも入れられる。
もちろん、生でも食べられる。
喜んだ女は果物を一つ手に取って、かじりついた。
シャリシャリシャリシャリ…と、みずみずしい果実を味わう女は微笑んだ。
ばかな人……。
ギルは渡す、と言ったのに…。
人の世は現金がすべて、でしょう?
だからこそ、こんな狂った世の中になってる。
わたしは、正しい。
そんなわたしに逆らうんだもの……。
…あっ、チョコボは…一羽、残しておくべきだった…。
二羽とも、殺してしまった…。
……まあ、いいか。
この人は「王都から来た」と話していた。
あっちへ進むと……じきに町へ着くだろう。
4個目の果実をかじる女はふと気になって、他の箱の蓋(ふた)も開けてみた。
同じ果物以外は何もない。
果物の箱ばかりが荷台に積まれている。
…いくらでも、食べれるみたい。
ふふふ…神様、ありがとうございます。
女は笑って食べ続けた。
炭鉱都市ゴルランドから出て、太い道を歩いていた女は北の方向から進んできた鳥車を襲い、その積荷を奪って食べたことにより、空腹感から脱した。
同じ果物を食べるだけ食べた女は両手や口のまわりがベタベタするのを気にかけながら、荷車から降りて歩き出した。
…何個、食べたのかしら?
……8個か、9個かな?
……手を水で洗えるといいのだけれど。
次に誰かに会ったら、「水を持ってはいませんでしょうか?」と聞いて…ふふふふふふ。
また…殺してしまうのも、いいかもしれない。
殺すと忘れられるし、満たされるし、少しは楽しくなるのだから……。
女は悲しくならないようにひたすら笑顔を保とうとしていた。
悲しくても涙を流せないのは、とてもつらい。
わたしの気持ちを誰が分かってくれるものか。
土台…元々、周囲は敵ばかりだったのだ。
お兄ちゃんだけが…わたしの味方だった……。
お兄ちゃんが…亡くなって…わたしは独りになってしまった。
お兄ちゃんのお葬式の後が大変だったな。
あの両親に頼ることなど、できない。
だから……エリーおばさんとイアンおじさんへ正直に全てを話した。
………二人とも、いい人だった。
わたしを実の娘のように扱ってくれた。
二人には子供がいなかったのも、あるのだろう。
しかし……本当に驚かされた。
『子供がいない夫婦』というのは…こんなにも、こんなにも、平穏で幸福なものであったのか、と。