口の中がきもち悪い。
何度か嘔吐した女は顔をしかめつつ、赤チョコボに乗っていた。
今朝は…自分が騎乗している…このチョコボを殺して、食料にしようとしていた。
今となっては…とても、そのように考えることはできない。
悪臭に包まれて、吐くだけ吐くと…食欲はどこかへいってしまった。
何か…飲みたい…とは…感じるけれど。
がれきの壁に阻まれ、ゼクラス砂漠に入れなかった女はよろよろと逃げるように、東を目指した。
がれきを迂回して進んだ赤チョコボと女は森林地帯へ到達した。
背が高く、太い幹をもつ樹木が、何本も何本も立っている。
それらの巨木によって、臭いがれきは森の中へは侵入できなかったらしい。
巨大な木々に食い止められているがれきの数々を横目に赤チョコボと女は森を進んでいった。
……倒れている木がある。
根本から折れている木や斜めになってしまっている木もある。
野生生物の宝庫だと、人々に知られていたアラグアイの森……。
しかし、小鳥のさえずり一つも聞こえてはこない。
もちろん、他の生き物もいないようだ。
…ここの森をねぐらにしていた『忍者集団』はどこへ消えたのだろう?
やつらから強力な武器を入手するためにアビリティ『キャッチ』をセットしては、この森を訪れたものだ。
スウィージの森よりも、鬱蒼(うっそう)とした森林を移動する女は赤チョコボの背にゆられつつ、いくつかの思い出を手繰り寄せた。
自分が通ったことがある細い道が残っているならば…その道をそのまま北上すると…炭鉱都市ゴルランドまで行けるはずである。
いろいろと思い出している女の内部で声が響いてきた。
その声の持ち主は騎士団の団員たちへ高圧的にふるまうことしかできない、ちっぽけな男であった。
男の名前はフリードリヒといい、彼は騎士団内では教官ではなく、事務を担当していた。
女はフリードリヒを『フリちゃん』と呼んでいた。
女の同期生たちもフリードリヒには全くといってもよいほど、敬意を払ってはいなかった。
団員たちは男女共にフリードリヒの言葉や態度が気に障り、彼がいないところでは陰口をたたいては彼をののしっていた。
フリードリヒという男は団員たちよりも何歳か年上だというだけで、他にはこれといって秀でている部分は何一つ無かったのだ。
『実力は無いくせに口だけは一人前』の事務員に対し、団員たちは彼の前では大人しくしていたが、彼が去ったあとでは堰(せき)を切っての言いたい放題だった。
そのフリードリヒが女の前に現れて「重要な任務の候補として、キサマが選ばれた」と述べ、それから任務の詳細を女へ話した。
「…以上だ。何か聞きたいことは?」と書類を持ったフリードリヒが言ったので、女は口を開いた。