門には飾り文字で『ニューンベルク城』とある。
しかし、『ニューンベルク城』はほぼ崩れてしまっており、残骸状態でその姿をさらしていた。
…城の西にあった塔が倒れている。
塔は城の中心部に向かって崩れ落ちており、特に城の西側は原形をとどめてはいなかった。
城の東側に建っていた教官用住居は全壊していて、一軒も残ってはいない。
『ニューンベルク城』には、東西南北の四箇所に門があった。
女は南門から入っていった。
『正面出入口』と団員たちと教官たちが呼んでいた、南門から続く城本体への出入口は無事だ。
扉は閉じられているが、門を警備している兵士の姿はない。
女は敷地内を見てあるき、考えた。
竜巻の一撃によって……これほどまでに、城が崩落するものだろうか?
岩場や演習場にはまだ行ってはいないけれど、城はぼろぼろになっている。
城とは別に造られていた教官用の建物もばらばらに砕かれている。
……北門の方は、どうなっているのだろう?
…北門へ行ってみよう。
城の東門の前にいた女は、かつて木製の小屋が建てられていた場所から歩いた。
進む女の耳へ「おい、こら!止まれ!」と、男の声が聞こえたのはその時である。
たたずむ女まで帯剣している男が2名、走ってきた。
二人とも同じ制服を着用している。
女は二人の男を交互に見た。
一人の男は女の顔をしっかりと見たとたん、凍り付いた。
もう一人の男は手を剣の柄(つか)へかけつつ、言った。
「…ここは国の管理施設だぞ。おい、女。無断で立ち入ってはならぬ。どういうつもりか?」妙に感じの悪い男はあごひげを生やしている。
「あ、あ…ごめんなさい。この城は、騎士団…ル…『ルザリア聖近衛騎士団』が使用していたと、思うのですが……」女は謝罪してから相手へ問うた。
「『ルザリア聖近衛騎士団』、だと!?…騎士団は襲撃を受けてから、東にある『ヘルベルト城』へ移ったろう。……ゲオルク・マインドルがひき起こしたあれを知らんのか?」あごひげの男は女を怪しみつつ、返した。
「………そう…だったのですか。許可を得ずに侵入してしまって、本当にごめんなさい。『ヘルベルト城』まで、行ってみます。大変申しわけありませんでした…」女は深々と頭を下げてから、踵(きびす)を返して東門へ歩き出した。
「…うむ。分かればよろしい。……?…先輩?どうしたんです?」あごひげの男は横で棒立ちになっている、もう一人の男へ声をかけた。
「………む、むかし…昔…ふられた……女性に…そっくりで…それで…」まばたきもできない男は何とか声を出した。
「??…何、言ってるんですか?まぁ…可愛い女ですけど…。いい女だってのは、認めますよ。さぁ…戻りましょう。アンディ先輩」あごひげの男はくるりと振り返り、北門の方向へ歩いていった。
アンディ先輩、と呼ばれた男は去ってゆく女の姿が見えなくなるまで、その場を動けなかった。
「……まさか、な…。何年経っているんだよ…まったく……」男は頭(かぶり)を振り、戻っていった。