ふるいものがたり

いらっしゃいませ。 このサイトには『ファイナルファンタジータクティクス』の二次創作小説があります。

水の色(02)

…………。

ドキドキしていたラムザへ大きな音が聞こえてきたのは、その時だった。

音は浴室内から響き、ラムザは全身を殴られたみたいになり、心臓が止まりそうになった。

ドン、ガン、ゴゴン、ダン……。

恐ろしい音がしてから、しばらくラムザは座ったままで凍りついていた。

…………。

耳を澄ましてみるが………もう、水の音はしない。

明かりはついている。

物音が消えた脱衣所の戸をラムザは黙って見つめていた。

ラムザはおびえきった声を出した。

「……ア、アリシ…ア…さん……。ど…どうしたんです…か……あ、あの……」

…………。

…………。

返事はない。

…………。

「ア、アリシアさん…今の…音は……」ラムザは再び、声をかけてみた。

…………。

…………。

ラムザは異様な感覚をおぼえてきた。

アリシアさん…どうしました…大丈夫…なんですか!?」ラムザは戸の前に立って、声を上げた。

…………。

…………。

音がしないどころか、なにかが動く気配すら感じられない。

「ア、アリシアさん…。あ、開けますよ…いいですか!?」恐怖心で全てが満たされてきたラムザは脱衣所に入り、浴室の戸をゆっくりと開けた。

ガララララ…と木と木がこすれる音がした。

そこで彼が目にしたものは、浴室の床に倒れているアリシアの姿であった。

水の色(01)

女はベッド上に寝かされていた。

彼女の裸体をしばらく凝視していたラムザは、ごくりと生唾を飲み込んでから首を左右にふり、彼女へと大きな布をかけた。

ラムザアリシアはフォボハム領の城塞都市ヤードーへ来ていた。

この町では4ヶ月に一度、『市』が開催される。

イヴァリースの各地から様々な中古品が集まってくるのだ。

ラムザアリシアは「なにか掘り出し物があるかもしれない」と、二人で町へ訪れた。

『市』は10日の間、催されている。

ヤードー全体が「巨大な店」のようになっており、町中はとても賑わっているのである。

アリシアは役立ちそうな装備品を露店で発見し、それを巧みに購入した。

いつもは冷静な彼女がうれしそうにするので、ラムザも自然と笑ってしまった。

「…二人で歩いているから……恋人同士だと、思われてるみたい、です…。さっきの店の人にも…『お兄さん、いい娘つれてるなぁ〜』って、言われちゃいましたし……」ラムザが言った。

アリシアはにっこりして、「うれしいですよ。わたしは…ラムザさんと、なら…」と返した。

「……は…はい…」ラムザはドキリ、と胸が鳴ったのに気付いた。

ラムザもいくつかの買い物をして、二人は宿屋まで戻ってきた。

いつからか、二人は手を握り合って歩いていた。

人通りが多く、特に狭い道は混雑している。

離れ離れにならないように、とアリシアラムザの手をとった。

ラムザは冷たい手の女が一緒にいてくれて、うれしくなった。

そして、彼女を恋しくも感じてくるのだった。

夕方になるよりも先に二人は宿へ帰り、部屋の中で入手した品々を確認していた。

夜食の後、部屋に備え付けられている浴室へ入り、ラムザは身体を洗った。

小さな浴室ではあるものの、付いているだけで十分にありがたい。

昼間、町中を歩きまわったので汗や土ぼこりにて、彼は汚れていた。

身体を拭いたラムザが部屋に戻ってくると、アリシアが言った。

「わたしも…入ってみます」と。

ラムザに続き、アリシアも脱衣所に入っていった。

水の流れる音がする。

ラムザアリシアがいなくなった部屋内のベッドに座り、いろいろなことを想像しては胸を高鳴らせていた。

いけない、と分かってはいるが…考えてはいけないことを考えている自分がいる。

アグリアスさん……。

愛するアグリアスの顔が浮かんでは消える…。

アリシアはとても魅力的な女性だ。

ラムザはまだ若い男性なのである。

戦士の務め(02)

「か…間一髪、だったね…ふぅ…」ラヴィアンはラムザの顔を見て、身体を起こした。

「背中…斬られたんじゃ…」ラムザはラヴィアンの手をとった。

「あー、うん。あたし、ローブの下に『ブリガンダイン』着てたの。だから…ほら……」ラヴィアンは裂けたローブを脱いだ。

彼女の背後にまわったラムザは薄花色(うすはないろ)の防具にできている傷を触った。

「……腕とか、首の方は…無事ですか?」心配そうなラムザの声にラヴィアンは明るい声で返した。

「えへへ。痛いところは、無いよ」両者の会話を聞いていたアリシアは、一対の忍者刀を鞘へおさめた。

それからアリシアは黒魔法で倒された賊の様子を見に行った。

モンスターたちを片付けたアグリアスがこちらへ歩いてきて、言った。

「こっちはどうか?」

「あたしは大丈夫。ラムジャさんも大丈夫です」ラヴィアンが答えた。

アリシアは戻ってきて、自動弓を拾いあげた。

「…三人の賊は全員、始末しました。『ボコ』は…蘇生が間に合いませんでした。残念です…」

「『ボコ』……。いいチョコボであったのだが……」アリシアの報告にアグリアスは目を伏せて、剣を鞘へおさめた。

……どこがどう、いいチョコボなのか?

ポンポンと卵ばかり産んで、こっちは迷惑していたのだけど。

邪魔なものがまたひとつなくなってよかったよ。

アリシアは回転するクリスタルを見て、心の中でつぶやいた。

3名の女たちの話を聞いていたラムザは「女の人って…すごいよな…」と感嘆(かんたん)しつつも、謝った。

「…ごめんなさい、ラヴィアンさん。僕をかばって…危険な目にあわせてしまって…。ごめんなさいです。僕、みんなに助けられてばかりで……」年下の男が発言するや、年上の女たちは彼へ向き直った。

「気遣いは無用であるぞ、ラムじゃよ。我らは騎士である。必要とあらば、主殿(あるじどの)のため、この身を投げ出す覚悟は出来ておる。こいつのような粗こつ者であっても、その点はわきまえとるのだ」アグリアスの言葉にラヴィアンは不満そうに言い返した。

「そこつもの…って、余計だってー!」

「何か、違ったのか?」アグリアスはふくれっ面のラヴィアンへ述べた。

「ラヴィアン……髪…切られてるね」アリシアはラヴィアンの後ろの髪をなでた。

「あッ!!あ、ああッ!!!いや〜だ〜〜ッ!!!こっそりと…伸ばしてたのにぃぃぃーーッ!!」ラヴィアンは頭をさわって、大声を上げた。

「髪など…また伸びてくるであろう」アグリアスは冷ややかに言い放った。

「やーーー、そーいう問題じゃなくてーーーッ!!」泣きそうな顔のラヴィアンにラムザは頭を下げた。

「ほ、ほ、ほんとうに…ごめんなさい。僕が転んだせいで…」びくびくと怯える男へ美しい顔に返り血を浴びている女は笑った。

「…ラムザさんは気にしないでいいよ。…短い方が似合っているけれど」

アリシアの言葉をうけたラヴィアンは「え!?……そう…かな?」とぼそぼそ言ってから、ラムザへ問いかけた。

「ね…ねぇ…ラムジャさん…。あたしの髪…短い方がいい?…どう思う?」と。

可愛らしい声を出したラヴィアンにラムザはどきりとして、「…は、はい。いいと…思います。僕は!」と返した。

「……な、なら…いいや。ラムジャさんもケガしてないし…アグリアスアリシアも元気そうだし…」ラヴィアンはどうしてか赤くなっている。

「町に帰ったら、理容師さんに髪を整えてもらおうよ」アリシアはラヴィアンの髪を見た。

「…ぅん。そーする…」ラヴィアンがうなずいた。

「なぁ…ラムじゃ…。ラムじゃは……短髪の女性(にょしょう)が…好みなの?」アグリアスラムザの顔をじっと見ている。

「い、いいえ…その…アグリアスさんは…そのままで…最高、です…」どぎまぎした男は言ってしまった。

「ラ…ラ…ラムじゃ…そんなふうに…言うて…」アグリアスはもじもじしている。

「「…………」」ラヴィアンとアリシアは黙って互いの顔を見あった。

「いかんぞよ〜、ラムじゃ…。ここは戦場(いくさば)なのじゃから〜。も〜う、ラムじゃったら〜」そう言いながらもアグリアスラムザの手を握った。

「ご…ごめん、です……」照れているラムザはそれ以上の言葉が出なかった。