ふるいものがたり

いらっしゃいませ。 ここは『ファイナルファンタジータクティクス』の二次創作小説があるサイトです。

水の色(05)

「いいの、いいんだよ。…わたし、うれしい。……男性は、そうなってしまうものなのでしょう。…女性も、そう。好きな男性から求められるとうれしいの。ただ……女はひねくれているから…素直に喜ばないだけ。ひねくれているのが正しい、と思い込んでいるから。………愛されたら、わたし…あんなこと……しなかった、だろうな……。…ラムザさんになら、どんなことをされたって、わたしはいいの。でも…ね……アグリアスがいるから……。わたしの人生はいつだって、同じ。…人がわたしの障壁となっている。人が…わたしの進みたい道を阻む。人が、わたしの未来を閉ざす。例えば、アグリアスがいるから…ラムザさんと……深い関係を結んではいけない、と考えるのね。もちろん、アグリアス本人に罪はない。わたしが一方的に彼女を邪魔者扱いしているだけ。……わたしは、こんな性格なの。それを変えたいと思いながらも、自分を変えられないで…生きている。だからこそ…“終わり”に向かって進むことを選んだ。人生の長さを嫌い、人生に対して抗(あらが)いたかった。そして……わたしはもう引き返せなくなった。もう、わたしは『別の生き方』なんて…できないし、願ってもいない。……ラムザさんだから言いますが、わたしは今までの人生で出会った人々にウソばかり、ついてきました。わたしの人生の半分はウソで塗り固められている、といってもよいほどです。…わたしはウソのカタマリ、なのです。けれど、けれど…わたし、ラムザさんには一つもウソをつけません。だましたりなど、できない。本当のことしか…話せないの。………ラムザさんと会えて、わたし…一時的にでも『別の自分』になれているように思うんです。少しの間、『別の生き方』を演じられているように思えて…それが…好きで、好きで。……だめ、ですね。アグリアスに悪いよね……」アリシアの言葉が終わるよりも先に、ラムザはもう片方の手をのばした。

「…ア、アリシアさん…僕は…僕は……。アリシアさんを……」

ラムザにとって、アリシアのセリフの大半は真意が不明だった。

神妙な面持ちのラムザアリシアは、もう片方の手をのばした。

水の色(04)

「………ありがとうございます…ですね、ラムザさん…。わたし…くらくらして…息が苦しくなった…というか、肩が重くなって…頭も重くて、つらくなってきて…それで、倒れた…みたいです……。………貧血かな。かなり、久しぶりになったな……」ラムザにはアリシアが独り言をしゃべっているように聞こえた。

彼が黙っていると、アリシアは続けた。

「……まれになるんです…。医者の話では…若い女は月経の関係上、貧血が多い、とのことです。……ごめんなさい、ラムザさん。心配かけて…。終わったからもう、入ってもいいかな…と思って、今日…。そうしたら…めまいがしてきて…。疲れたのもあるのでしょうけど……倒れてしまったのですね…」

ラムザは「……ごめんなさい」と返した。

彼女へ劣情を抱いていた自分は何という人間なのであろう。

……恥、そのものじゃないか。

「…???なにを、です?……あれ、わたし…裸…で……。………あっ、こ、これは…ぇ…それなら…ぁ……」アリシアは自らの全身を触り、じわじわと赤面していった。

「……あッ、あッ、いえ…よよよよ、よくは見て、いませんん、なにも、ししし、してませんので…ゆゆ許して…くださいいいい…。ご、ごめんなさいいいぃ…アリシアさんんん……」彼女が赤面するのはとても珍しいことなのであるが、ラムザはぶるぶると震え上がり、それに気付かなかった。

だが、気まずい沈黙を破ったのは、アリシアの方であった。

「………。いいです。ラムザになら…どこ、見られても……。わたし…ラムザさんのこと…大切ですし…。慕っていますから…。どう…でした……ラムザさん…わたしの…身体…」アリシアは布で口を隠してぼそぼそしゃべった。

「…キ、キレイでした。キレイで、キレイで…だ、抱きしめたく…なってしまいました……」ラムザは正直に白状した。

「…………ぅれしぃ…。……今、わかりました。どうして…わたし…ラムザさんと一緒にいたいな、と思うのかを。………ラムザさん、わたしのお兄ちゃんと雰囲気が似ているんです。顔はラムザさんの方がかっこいいでしょうが、雰囲気が似ています。わたしの…亡くなった、お兄ちゃんに………」ラムザの表情を見てから、アリシアはさらに言った。

「お兄ちゃんは…いつも、いつも、どんな時も…わたしを助けてくれました。わたし、子供の頃は…『お兄ちゃんと結婚したい』と、本気で考えていたぐらいです…。ラムザさんと同じで…お兄ちゃんは優しいひと、でした。………。ラムザさんも…女のひとに優しいから…ふふふふふ。アグリアス…幸せ者、だね。……。アグリアスが邪魔だ、なんて言ったら…ラムザさん、わたしを嫌いますか?時折…『アグリアスがいなければ、わたしは別の生き方ができた』かもしれない、と思うことがあるの。最低だよね、わたし……」アリシアは目を伏せた。

「…そそそ、そんなこと、ありませんよ…アリシアさん。僕は…そんなふうに思いません。アリシアさんが最低なら…僕は、もっともっともっと最低です……。…裸のアリシアさんを見て…ここここ、興奮しちゃいました。具合が悪い、アリシアさんに…いい、いやらしい気持ちを抱きました…。それだけでも…僕は、もう十分に…最低です……」アリシアの言葉にラムザは率直に返した。

泣きそうな顔の男の手に冷たい女の手が重なった。

驚いて顔を上げたラムザに、アリシアは述べた。

水の色(03)

!!!!!

「ア、アリシアさんッ!!!」呼びかけたが、女は「………ぅ…んん……」としか声を出せなかった。

ラムザはもう一度、叫んだ。

アリシアさん!!し、しっかりして…くださいッ!!」

ごろんと濡れた床に寝たままのアリシアを抱き上げたラムザは、彼女をベッドまで運んだ。

このような場合、倒れている人間を持ち上げるのには、かなりの力がいる。

しかし…どうしてか、その時のラムザにはそんな力があった。

ベッドの上に彼女を横たえたラムザは浴室まで一度戻り、頭上の明かりを消してから湯あがりに身体を拭く大きな布を持ってきた。

アリシアをあお向けにしながら彼女の身体より水滴を拭き取っていたラムザは、ぐったりしている色白の女の身体に自然と見とれてしまった。

アグリアスさんとは違う女体だ。

アグリアスさんのもいいけれど、アリシアさんのもこれまたいい。

か、かわいいですよ…アリシアさん……。

………はっ!!!

何を考えているんだろう、僕は、僕は…。

ラムザはすさまじい罪の意識にさいなまれ、浅い呼吸をしているアリシアへ布をかけた。

それから、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう……と、困り果てていたラムザの耳に「…ん、んん…ぁ……これ…は…あ、ラ、ラムザ…さん?……わ、わたし…は……」と女の声が届いた。

「あ、いた、い…い、ぐ…頭…肘(ひじ)…膝も…いた…ぃ……」アリシアは起き上がろうとして、顔をしかめた。

「…え、ええと…。こ、転んだみたいでして…浴室で…。僕がベッドまで…運んで、それで……」ラムザは震えながら言葉をつなげた。

妙にのどが乾いてくる。